2012/06/10

12.06.10 古本漁り

ちょっと用事が重なったので実家に寄ってきた。
ずっと探している本があり帰るたびに本棚を穿り返すのだがまだ見つからない。
その代わりに昔読んだ本を少しずつ持って帰ってきている。今回は美術系雑誌を何冊か持って帰ってきたのでさらっと紹介する。

美術手帖 Mar. 1987 「世紀末を射る2つのB」

美術手帖 Mar 1987 001美術手帖 Mar 1987 003美術手帖 Mar 1987 004バーン・ジョーズとベックリーンの二人がなんで特集されているのか。というかなぜこの特集号を持っているのだろう? 自分で買ったのではないかもしれない。ラファエル前派はどちらかというと苦手だし、ベックリーンなんて知らないし、と思って帰ってきて中をパラパラ見て驚いた。
よくネットで「怖い絵」として取り上げられることがある『死の島』という作品がベックリーンのものだったのだ。しかも何作も見ていると彼の作品の中で特にこれが際立って怖気立つような作品でないこともわかった。予備知識が全く無い状態で初めてこの絵を見た時は夜うなされるんじゃないかと思うぐらい怖かったのだが。
美術手帖 Mar 1987 006
これがベックリーンの『死の島』である。日本だと「三途の川」を渡るのだが、西洋では黄泉の国は島にあり、海(湖?)を渡るのだろうか。ひたすら静謐で陽も差さぬような澱んだ空と水の中に浮かぶ島はごつごつとした岩肌の崖の隙間に奇妙に均整が取れた近代的にすら思える神殿のような建築物がその内部に刻まれていることが判る。島の中央に細長く伸びた木々によってできあがった黒い森がある。
まさに島に辿りつこうとしている手漕ぎの船に乗った白装束の人の背丈から考えると、岩の神殿もそれに挟まれた黒い森も尋常ならぬ大きさである。あー怖い。村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』という初期の著作があるがあの「壁」に囲まれた奇妙な村とイメージが重なる。何かが営まれているようでもあるが、それは決してどこへも行かず何も生まずただ常に今日は昨日の繰り返しであり、それは明日が今日になる事と同じぐらい約束された揺るぎのない = 運動がない世界。
この号にドイツ文学者の池内紀がベックリーンに関する小文を寄せている。それによるとベックリーンは自分の作品にタイトルやキャプションなどを一切付けなかったという。したがってこの作品に『死の島』というタイトルを付けたのも作者本人ではない。これはいったい彼にとってなんだったのだろうか。理想なのか絶望なのか。あー、怖い怖い。
さらにトリヴィアを。ヒトラーが最も好んだ画家が誰あろうこのベックリーンであり、ベックリーンの作品のみを展示する美術館を建てる構想まであったそうだ。うーむ。
美術手帖 May, 1988 「マシーン・エイジ」

美術手帖 May 1988 001

美術手帖 May 1988 003

美術手帖 May 1988 004もう1冊はマシーン・エイジということでタイトルからはイタリアの未来派あたりを連想させるが同年に毎日新聞社主催で開かれた『1920-30年代/ニューヨークの夢と未来「アメリカの時代」展』をもとに構成したと但し書きにあるようにどちらかというとジャズ・エイジとモダニズム真っ盛りの20世紀初頭のキンピカなメリケンものである。でもグラビアをパラパラめくっているとなんとなくロシア構成主義的な符号(生産、最新技術、進歩、鉄, etc)な散りばめられているかのようでもあり面白い。というか1988年にどういう文脈でみんなこれを観ていたんでしょうか。ちなみに1987年2月にウォーホールが亡くなりました。

「マシーン・エイジ」という言葉もなんかたぶん定着もせずにすぐ消費されてしまったのだと思うが、それに上塗りして「メタル・メタフィジーク」とか「ハイパー・メタル」とかひねり出しちゃっている「ラビドロジー」という謎のタイトルを名乗っている評論家(今もご活躍)とかいて、うーむ。のちのとっ散らかりぶりは既にこのころからぷんぷん発芽していたみたいだ。

ローリー・アンダーソンの比較的長いインタビューが載っているのだが、特に面白くはない。それより最近知ったのだがローリー・アンダーソンは今ルー・リードとパートナーシップにあるそうでこれはたいそう驚いた、というかNYC恐るべし。

美術手帖 May 1988 005最後に偶々小さな囲み記事で「富山事件」について書かれたドキュメンタリーが紹介されていたのでその記事を貼っておく。なかなかどんな作品だったか参照できる機会も少ないと思うのでこういうちょっとした広いものを見つけると古本漁りって面白いなーと思って止められないのである。部屋が散らかって家人には叱られるのだが。

ところで「ラビドロジー」ってなんだかご存知の方がいらしたらご教示頂けると大変ありがたいです。

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